書籍・雑誌

2019年1月 3日 (木)

夏目漱石「虞美人草」1907

漱石の連載小説第一作とかで、文章が凝っている
麗句をみがき、禅問答みたいに最後を示さないのでわかりづらい
対照的に、会話は後半にゆくにつれ、よどみなく、的を射たものになる
漱石の小説にしては珍しく、活劇のようにすらすら読めて行く
久しぶりに読むので、結末は忘れていた

秀才の詩人、小野さんが栄達を欲し、世話になった恩師の娘をふって、美人な甲野藤尾を恋する
藤尾の兄欽吾は控えめな哲学者、父が海外で急死し、家督をつぐ立場だが
義理の母からは疎んぜられ、義理妹藤尾に財産を譲って家を出ようとまで思う
欽吾の友人、宗近一はのらりくらりした凡庸とも見える人物
欽吾の父が、かつて一に藤尾をやろうという約束をしたかしないか、一も心得ているが積極的でない
妹糸子はすなおな普通の娘で欽吾を好いている
藤尾は、野暮でなく有望な小野と結婚することをのぞみ、母もそちらがいいと思っている

小野が代理に浅井を立てて、小夜子との結婚を断ったところから急展開する
事情を知った、宗近一が、それまでのキャラと一変してヒーローのように活躍する
宗近家から三台の力車が飛び立ち、小夜子が欽吾を迎えに行く
父は恩師宅を訪れ、事態収拾を任せてもらうよう説得する
一は、小野を訪れ、真人間になれと小夜子との結婚が本来だと再認させる
小野と小夜子を連れて、甲野宅を訪れ、藤尾にはっきりと小野の意思を伝えさせる

気の弱い小野さんだが、小夜子と連れ添うことで後悔が起こらないのだろうか
自ら、好きな人ができたと恩師に断りに行けば、藤尾と一緒になれただろう
いくぶん欲を好むカップルができあがってもそれもありだと思える
プライドを傷つけられた藤尾は憤死してむなしい
かなり高慢な女だけど、自分の欲望に忠実といえば、新しい女のタイプ
うわすべりを嫌う漱石に、女が抹殺されてしまった

この小説は、ドラマ化できないでしょうね
小野さんの翻意が理解されず、藤尾への同情で、ブーイングの嵐となりそう

2018年12月30日 (日)

正岡子規「仰臥漫録」

手元に残った文庫類も読み返している
小説はおもしろいものもあるが、あまり心に残らない
中では、子規の日記が印象深かった
子規といえば「病床六尺」がよく知られている
病気に苦しみ、「渡辺のお嬢さんに一晩泊まってほしい」ともらす挿話は覚えているが
新聞に載せた随筆だから、ある程度収まった内容
ところが、「仰臥漫録」は私的な記録だから、内容はよほど違う

前半は事細かに食事の内容が記されている
よく食べる
動けない体で、食べることくらいしか変化を味わうことがなかったとわかるが
食べることが苦しみを減らすとでも感じていたとしか思えない執着ぶり
穀類・造り・佃煮類・果物・菓子類・パン類を驚くほど食べている
それに比べて野菜類が極端に少ないのは、当時の普通な食事なんだろうか
うまみのわかりやすい品に手を出しているという気がする

体の痛みで、絶叫・号泣がしばしば
看護する母や妹が側にいてくれないと、苦痛が増すと怒り出す
「病床六尺」のような随筆を書きながらも、崩れて行く体を少しも御すことができない
わがまましか出てこない日々ながら、明治34年9月21日にこう綴られる

律(妹の名前)は強情なりと責めた文の終わりの方
余の病はいかんともすべし/もし彼病まんか、彼も余も一家もにっちもさっちもいかぬこととなるなり
故に余は常に彼に死あらんよりは、我に死あらんことを望めり